そう言うことだったのかと、私は全てを理解した。

藤岡さんが事情を知っていたことと一目で和明を見て元婚約者だと気づいたのは、そう言うことだったんだ。

「僕はあなたの話に黙って耳を傾けていました。

あなたを悲しませた元婚約者を許せないと思ったのと同時に、僕だったらあなたを幸せにできるのに…と思いました」

藤岡さんが話を続けた。

「無意識に、それも自然と唇からこぼれ落ちていました」

藤岡さんは私を見つめると、
「“僕ならば、あなたを泣かせないのに”、と」
と、言った。

「えっ…?」

眼鏡越しのその瞳は熱くて、私の心臓がドキッと鳴った。

「僕は、あなたのことを好きになってしまったんです。

一目ぼれ、と言うものでしょうか?

強いて言うならば、あなたの泣き顔にひかれたと言うところですかね」

藤岡さんははにかんだように笑うと、目を伏せた。