目の下の隈があきらかに、アイドルとしてやっていく男の子のものではない。怯んでないでしっかりお説教しなくちゃ。と私は意を決した。
「みんなにどれだけ心配かけたかわかってる?」
自分は感情的になりやすい。
昔からそうだから理解してる。だから怒鳴るんじゃなくて、諭す方向で行こう。昨日晃と一緒だったから、心が穏やかではあった。
「そっちが勝手に心配したんでしょ。はやくでてって。無駄な時間は過ごしたくないから」
しかしこの双子のかたわれの言葉にピキっと、血管がういたような気がする。
「あのね、なに?その態度。みんなみんな慎太郎くんが何かに巻き込まれたらどうしようって」
「どうでもいいよ。こっちの方が大切」
お節介なおばさんに捕まった時のような顔。
いま間違いなくそんな顔をした彼は、大きなため息をついてヘッドホンを装着し、コントローラーを持ち直した。
プッチーン
穏やかにことを済まそうとしていたさっきまでの私とはもうさようなら。
すぐさま立ち上がり、コンセントを勢いよく抜く。
「は?」
「ちゃんと話を聞け!!」
これでやっと面と向かって話ができる
そう思ったのは私の間違いだった。
「こ、コンセントぬ、抜いたの?」
「そうだよ。そうしなくちゃやめないでしょ?」
「な、な、なにすんだよぉおおおおおお!!」
四つん這いでテレビのほうに寄ってきて、現実を受け入れた慎太郎くんは頭を抱える。その姿はまるで、かの有名なギャンブル漫画の主人公のような姿。
「ちょ、お、落ち着いて」
「落ち着いて?はぁああ?これが落ち着いていられる??僕がいままでやってきたゲームの内容がぶっ飛んだんだよ!!しかもこれでデータぶっ壊れてたらどうしてくれる気!?」
「でもさ」
「でもさ、じゃないっ!!大体勝手に入ってきて、人の趣味に難癖つけて、挙げ句の果てに消す!?これだからゲームしない人は!これがどれだけ最低の行為かわかってないんだっ!!」
いままで見たことない形相で捲し立ててくる慎太郎くんに、私は返す言葉を失ってしまった。
でも元はと言えば彼が悪くない?
モラルとして悪いのはこの子でしょ?
と気の強い私の心が納得いかない。
「こんなしょーもないものに時間かけるくるいなら、アイドルになるために努力しろっ!!」
だから、感情に任せて叫んでしまった。
そのあとすぐに『地雷踏んじゃダメよ』なんて声をかけてくれたしーちゃんのセリフが、脳内で再生される。
「しょーもないもの?」
「い、一文の得にもならない、人生に必要ないものでしょ」
それなのに馬鹿な私は、全国のゲーマーを敵に回す言葉を続けてしまった。感情的にならないんじゃなかったのか。心優。
これはとんでもない喧嘩になると覚悟したけれど、慎太郎くんは私を蔑むような目で静かに呟いた。
「でてってよ」
「ま、まだ話が」
「話すことなんかないっ!!!でてけ!!!」
背中を押されて部屋の外へと強制送還。
バタンっ!!という扉の音が背中で聞こえたときに、理解した。
慎太郎くんの心の扉も閉めてしまったということを。