器に移して、湯気がおさまった頃に凛太朗くんはようやくうどんを口に運んだ。


「……美味しい」


そして一言。

なんだかホッとした……食べることは食べるのか。



「たくさん食べなよ……凛太朗くんは、まず身体作りだね……」


はぁ。とため息をついて、頭を抱える。


どうしてあの4人はこんな危険人物を放っておけるんだ。

「うどん好き…になった。」

「…よかった…というか誰も作ってくれないの?」

「……しーちゃんがいつもしてくれる。でも美容に気を使ってるとか言って、お野菜ばっかりのまずいものばかり食べさすから…いらない」

「あのおネェ徹底してるのね……」


「由乃さんは良く…作ってくれた。だからみゆちゃん…由乃さんに似てるって思う……」



その名前にドクンと心臓が音を立てた。


似てる?私があんな薄情な母親に?


「……似てない。似るわけないよ。」

「……そうかな?……でも確かに…由乃さんは料理下手だった…」


みゆちゃんのは美味しい


と呟いた凛太朗くんのお箸が進む



当たり前だ。おばあちゃんの味は全部私が引き継いだ。
さっさとでていったお母さんにできるわけない。


……ほんと腹を立たせるのが上手い人だ。



「……これから主食にお菓子なんて食べたらダメだよ。わかった?」

「約束はできない……」


「おい。そこはしろ」


「……ならみゆちゃんがしに来て。」


上目遣いでそんなことを言われて少しドキッとした。


いや、顔がいいって言うのは、本当に厄介なものだ。



「こないよ。私忙しいんだよ…」


「……ならここに住めばいいよ…お部屋空いてる」


「いや、結構。っていうかまだ部屋があるの?」


「……由乃さんが……使ってた。」

「はあ??」


凛太朗くんの言葉に私の時が止まる。


使ってた?はぁ?男と住んでたの?


「……誰かが病気したり、何かあった時はここに来て泊まり込む用の部屋……」



凛太朗くんのセリフを聞いて、どこまでもむかつく母親だと思った。


私のことはほったらかしだったのに。
なんてやつなの。



「……ほら凛太朗くん話してないで食べな」


「ん」


わざと話をはぐらかしたのは、これ以上聞きたくなかったから。聞きたいわけない。自分をほったらかした親の生活なんて。



「……うどん美味しい……」


「おかわりしなよ!」

「はーい……」


凛太朗くんは、美味しい、美味しいとただひたすらに食べていた。



この細い身体を戻すにはどれくらいかければいいのだろうか……ため息しか出ないよ。