愛希は、戻ってくるなり私の隣の席に座って、尋ねてきた。

「何、いきなり!いいから、英語の課題やりなよ。」

そう言うと、その席に座ったまま、課題を進め始めた。だが、きちんと課題に向き合ったのはほんの1、2行で、すぐに私の方に体を向けてきた。

「なぁなぁ、いいところって何のこと?もしかして、好きな奴のことかよ?」

「別に、何でもいいでしょ〜。」

「あ、顔赤くなった!なになに、やっぱり何かあったんだろ?LINEしたとか!」

どきりとする。
何故分かったのだろう。きーちゃんも愛希も、やたらと勘がいい。

「・・・うん、まぁ、ね。」

「おお!やっぱりな〜。そんで?何か話した?」

「話してない。・・・でも話したいの!愛希、何か話題ないかなぁ?」

そう聞くと、愛希はやりもしない英語の課題をちらりと見た。

「知らんね。自分で考えれば。」

「何で〜?いや、何かね、きーちゃんに聞いたら、共通の話題を見つけなって言うんだよ。でもさ、私、その子のこと何も知らなくて。何を話したらいいのか、どんな話題を持ちかけたらいいのか、全然分かんないんだよ。」

話し終えて彼の方を見ると、彼はノートに向かってシャーペンを走らせていた。

「ちょっと、愛希!聞いてた?」

「何が。てかお前、急に好きな奴のことになったらぺらぺらしゃべり出してさ。本当にそいつのこと好きなんだな。」

ノートに目線を落としたまま、彼はやげやりのように言った。この前のLINEでは、応援するとか、優しい言葉をかけてくれたのに、今日はやけにそっけない。

「愛希はさ、好きな子とどんなこと話すの?」

「・・・そーだな・・・。」

彼はシャーペンを指先で器用に回しながら、天井を見た。そして、ぽろぽろと涙をこぼすように言葉をこぼした。

「・・・その子さ、好きな奴がいるっつったじゃん?だからさ、最近はその好きな奴の話ばっかりするんだよなぁ。もう、どうしたらいいのか分かんねえよ。」

「・・・そっか。」

すると突然、彼は顔をかぁっと赤くした。

「あ、何言ってんだろ俺。あー、やっぱ何でもない!今の聞かなかったことにして!」

「え〜、やだ!愛希の片想いの嘆き、絶対忘れないよ!そんな可愛いこと言うんだね〜。その好きな子は、こんなに愛希に愛されてて幸せだね〜。」

「うっさい。早く忘れろよ!」

愛希はそう言うと、まだ終わっていない英語のノートを持って、自分の席に戻ってしまった。まだ、顔が少し赤い。

愛希も、片想いのつらさと戦っているんだ。

私も、頑張らなきゃな。