私は、そのメッセージを読んだあと、立ち上がって走り出したい衝動に駆られた。

夢みたいで、信じられなくて、何度も何度も画面を見つめなおす。どうやら幻覚ではないらしい。何度見返しても、そのメッセージは消えずにきちんとそこにあった。

というか、『葉桜さん』って・・・。

凄く他人行儀だなぁ。まぁ、結弦君らしいけどね。返事が来てくれただけでも嬉しい。
何と打とうか迷っていたら、時間ばかりが過ぎてしまった。あわてて打った返事は、いかにもという感じになってしまった。

『よろしく〜☆』

そして、可愛いスタンプも送る。ぺこりと頭をさげている猫のスタンプだ。

たったこれだけの言葉なのに、なんだか緊張してなかなか送信ボタンを押せなかった。

彼は、既読が遅い。
ずっと未読のままで、30分が経った頃、ようやく返事が来た。

『よろしく〜』
『葉桜さんでいいんだよね?』

どうして名字にさん付けなの??

距離があるなぁ。分厚い壁が、彼との間に立ちはだかっているみたいだ。その分厚い壁のさらに三軒先くらいに彼はいる。
彼の心は、月より遠い。

『月影、でいいよ!』

思わずそう送ると、思い切った私の勇気なんてスルーで、

『オッケー!』

と、返って来た。

でも、彼と話せているという事実が嬉しすぎて、思考回路が停止していた。

今なら、どんなことを言われても傷付かないし、悲しまないかもしれない。その気持ちより、今ここにある喜びのほうが大きいからだ。