数学の課題が、ようやく終わりそうになった頃、もう外はオレンジに色づいていた。

休憩がてらにスマホを触ろうとして、はたと思い出す。スマホを立ち上げれば、また彼のことを思い出してしまう。もう、何も考えたくないのに。

それでも、私は、おそるおそるスマホの電源を入れた。ぱっと画面に光が宿る。未読のLINEたちが、ずらりと並んでいる。

その送り主を、用心深く見た。分かってはいたが、彼の名前はない。

はぁ、とため息をついて、一番下の送り主を見ると、それは愛希からだった。

『すーがくの課題、終わった?』

愛希って暇なのかなーと思いつつ、返信を打つ。

『まだ〜。でも、もう少しで終わる〜』
『あいきは?』

まぁ、やってないんでしょうけど、と思っていたが、予想通りの返事が来た。

『まだ1問も解いてない笑笑』
『つきか、えらすぎやろー』
『たのむ、見してくれー』

『絶対見せない〜笑笑』

『なんでー』
『送ってくれよー笑笑』

『あいきのためにならないでしょ!』
『自分でやんなよ〜』

『ケチだなー』
『いつもは優しくてかわいいのに、今日はケチだなー』

『お世辞を言っても見せませんから〜笑笑』
『そう言うのは、好きな人に言ったら?』

そう冗談を送ると、急に既読が遅くなる。もう今更ごまかしたって、変わらないのに。
リビングから、自分の部屋へ行き、椅子に腰掛けたところで、ようやく返事が来た。

『そーいや、』
『好きな人に、おはようは言えたのか??』

話を思いっきりそらしている。困った時に、私もやるやつだ。・・・質問返し。

『言えてない笑笑』
『てか、脈がなさすぎて、もう無理かも笑笑』

『なんで?』
『相手に好きな人がいるとか?』

どきりとした。
確かに、14歳ともなると、好きな人がいないと言う方が珍しい。

『いるかもね笑笑』
『てか、そういう次元じゃないもん』

まだ、友達と呼べるかどうかも怪しいなんて、そんなことは言えないけど。

『なになに?』
『俺が恋愛の悩みに答えてやろう!』

何、ばかなこと言ってんだか。
『じゃあさ、』
『好きな人に振り向いてもらうには、どーすればいいの?』

『大ざっぱすぎるやろー笑笑』
『まぁ、そいつのこと、ずーっと見つめてればいいんじゃん?そんで、目が合ったらそらす』

みんな、同じようなことを言うなぁと思う。

『あとはもう、普通に話しかけるしかないだろ笑笑』

『それは無理!』

『なんで?俺がそうさせてやろうか?』

『恥ずかしいから、無理』

『何、女の子みたいなこと言ってんだよ笑笑』

『いやいや、私女の子だから!笑笑』
『あいきは好きな人と話すの、恥ずかしくないの?』

『恥ずいね』
『なんか変なこと言ってないか不安になるし』
『けっこー緊張する』

へぇーと思う。
あの人気者の愛希でも、人と話すときに緊張することなんてあるんだ。

『じゃあ、私の気持ち分かるでしょ?』

『まぁ、分からんくもないけど』
『でも、話さねーと始まらねぇだろ』

ううう。胸にきた。
まさにその通りだ。正論すぎて、何も言い返せない。

『そーだよね笑笑』
『まぁ、頑張ってみるよ〜』

『おう』
『がんばれ』
『応援してるぞ』

いつもより優しい愛希の返事に、思わず笑ってしまう。なんか愛希らしくない。こんなに優しかったっけ?

『ありがとう!』
『あいきも頑張って!』

そう打つと、なんか変な踊りをしている猫のスタンプが送られてきた。

ばかじゃないの、と思いつつも、それを見て微笑んでいる自分がいた。