肌寒い風に吹かれながら、通学路を歩き進む。赤いチェックのマフラーに顔をうずめて、その隙間から、白い息をはぁっと出す。

今日も冬だ。

私は、昨日愛希に言われたことを思い返していた。好きな人にあいさつが出来ないと言ったら、勇気と根性で何とかなると言われたのだ。たしかにそうかもしれない。
小さな勇気で、世界は少しだけ変わるのだ。

教室に入るとき、一度立ち止まって、深呼吸をしてみた。もし、彼がいたら、絶対言おう。笑顔で言おう。

「おはよう。」と。

そう意気込んだにもかかわらず、まだ教室に彼はいなかった。しょんぼりして、自分の席にバッグを置く。少しだけ、左ななめ前の席をにらむ。 あーあ、どうして来てないのさぁ・・・。