アゲハは、まだ落ち込むのは早い、とばかりに再び口を開く。

「でもね・・・。日直の当番が回ってきたとき、初めて話せたのよ。日誌取ってきてーとか、黒板消すの俺やっとくわーとか言う、社交辞令だったけど、私は嬉しくて。
うんーとか、ありがとうーとか返したかなぁ。そのあと、日直の仕事でふたりで居残りしたよ。夕焼けのさす教室に二人きりでさぁ。あ〜、あれは青春だね〜。」

アゲハの言い方が、あまりに昔を懐かしむおばあちゃんのようで、笑えてきた。

「何笑ってんのよー。今いいとこでしょ?
その時ね、私聞いてみたのよ。好きな人いたりするの?ってね。多分、いつもまわりにいる怖い女の子たちがいなくて、ちょっとだけ素直になれたのね。
・・・でも、そしたらさ、いるよってあっさり言うのよね。もう、頭に隕石がぶち当たったみたいな衝撃でさ〜。
ショックが顔に出てたんだろうね。彼がさー、冗談っぽく聞いてくるのよ。何、もしかしてショックだった?って。図星だけど、認めるわけにもいかないしで困ったなぁ。そのまま黙ってても、肯定してるみたいになっちゃうしさ。いじわるな奴だよねー。」

そう言いつつも、彼女の顔は、恋する乙女そのものだった。