「アゲハは、恋とかしてるの?」

「当たり前よ。私、前世は人だったんだから。あんたと同じ、健気に片想いする可愛い女の子だったのよ。」

またまたぁ。夢の話でしょ?と思いつつも黙ってうなづく。それでそれで?という感じで。

「中学生の頃だったかなぁ。初恋をしたのは。」

遅くないか?と、つっこむと、今時の子が早すぎるのよ、とさも当然のように返した。

「クラスで一番って言われるほどのかっこいい人でね。たしか、サッカー部だったかな。もう、サッカー部が試合するときなんて、凄い大騒ぎよ。でも、私は文化部だったから、外に見に行くことは出来ないの。ただ、黄色い声が飛び交うグラウンドを背に、黙々と部活に集中してるふりをしてただけ。」

んんん?と思った。私には、話しかけろとか、ろくに話せもしないとか言ってたくせに、彼女だって何もできていないじゃないか。
そんな私の心情を読み取るように、彼女は続ける。

「そう、接点なんてまるでなかった。そんなクラスの高嶺の花になんて、初めは興味すらなかった。なのに、なんでだろうね。気付いたら好きになってたのよ。」

「きっかけとかは、あるの?」

恋に落ちる瞬間に気がつかなくても、恋に落ちるきっかけというのは、必ずあるはずだ。

「う〜ん、そうね。初めは、苦手なタイプだなーと思ったの。顔がいい男って、大抵女たらしでチャラい奴しかいないと思ってたから。
でもさー、学級委員とか、生徒会とか、そういうみんながやりたがらない仕事を引き受けたりするのは、彼の人柄の良さだろうし。
それに、誰かが困ってるとすぐに駆けつけるのよね。ハンカチ一枚落ちてても、みんなスルーなのに彼はちゃんと持ち主を見つけるまで探すしね。
・・・そんな奴なんて、きっといくらでもいるんだろうけど、その時のあたしには彼が眩しく写ったのよね。なんでだか。」

そう言って、照れくさそうにはにかんだ。
そっか・・・。アゲハもちゃんと恋してたんだ。

今の私のように。