放課後になり、教室を出ると、ぱっと誰かと目が合った。

「悪りいな〜月影ぁ。聞いちゃったわー。」

そう言ってにやにやした顔でこちらを見てくる男子。

「愛希?何、聞いたって。」

「とぼけんなよ〜。好きな奴がいるんだろ?しかもこのクラスに!」

あちゃー、と思う。聞いていたのか。

「うっさい!別にいないし!」

「まあまあ、照れんなよ〜。顔赤いぞ?それよりさ〜、誰に惚れてんの?」

「言うわけないっしょ!」

階段を降りる私のあとを追ってくる。
そう言えば愛希は、しつこい奴なのだった。何かを言うと、本音を吐くまで一切引き下がらない。めんどくさい奴に、知られてしまったもんだ。

私は大袈裟に溜め息をつく。

「あのね、別に好きな人なんていないから。」

「またまた〜。ごまかそうとしなくていいってば。だって俺聞いちゃったんだもん。」

そう言って、早足で歩く私に歩幅を合わせて付いてくる。下駄箱から外履きを出して、靴を履く私と共に、隣で彼も靴を履き替えていた。
そして歩き出す。

「・・・どこから聞いてた?」

くるりと振り返って彼の目を見る。今更ながら
、不安になってきた。

「う〜ん、なんかさ、紀伊が片想いの解決策を考えるとか言ってたじゃん。その辺からかなー。ま、全部聞いてたけどなー。」

はっはっはっはと手をたたいて笑う。

「どっちなの!?」

腹たつー!愛希って、こういうとこがなければいい奴なんだけどね。

「まあまあ、どっから聞いてたかなんてどーでもいいじゃん?それよりさぁ、惚れた奴の名前教えてよ。」

バッグの中から自転車のカギを取り出す。それを自転車に差し込みながら、彼に言い返した。

「だーかーらー。言わないってば。愛希だって、本気で好きになった人の名前を、そう簡単に誰かに教えないでしょ?」

すると、しばらく黙り込み、顔を上げると、にこりと口角を上げた。

「いやー?信頼出来る人には、言うけど。」

「ああそう。じゃあ、愛希は信頼出来ないってことで。」

「酷え〜!じゃあさ、今日LINEするから、それで教えろよ。それなら恥ずくないっしょ?本気の恋の相手を言うの。」

完全にばかにした笑みを浮かべて、しゃーっと自転車をこいでいってしまった。

やっぱり、愛希はうざい。ほんとに、昔から変わらない奴だ。

私は自転車のペダルを踏みながら、そう思った。