「月影。どうしたの?」

翌日のお昼休み。きーちゃんが、お弁当を口に運ぶ私の顔を、覗きこむようにして見てきた。

「へ?どうもしないけど・・・?」

「んなわけないっしょ!何、その恋する乙女みたいな顔は!好きな人が出来たのか!?」

凄い迫力で、きーちゃんは言い切った。
・・・恋する乙女みたいな顔?何それ?

「いや・・・、好きな人なんて・・・。」

実は、結弦君に片想いをしていることは、まだ誰にも打ち明けていないのだった。
どうにかごまかそうとする私に、きーちゃんはふっと笑った。

「ごめん。踏み込みすぎたね。まぁ、とにかく言ってごらんよ。悩んでることあるんでしょ?何でも聞くよ。」

優しいお姉さんのような彼女の言葉に、私は感涙しそうになった。信頼出来る彼女には、言ってもいいかもしれない。

でも、結弦君が好きだと言ったらどう思うだろう。あまり話していないのにどうして?とか、接点ないんじゃない?とか思われたら、嫌だ。そんなことはない。彼を思う気持ちは、ただの一目惚れとは違うのだ。
しばらく迷った末、私はこう打ち明けた。

「実は、好きな人がいる・・・、の。」

彼女は、やっぱりね、と言わんばかりの表情を浮かべている。
そのあと、何も言わない私に、根負けしたきーちゃんは、なめらかな声でこう問うた。

「誰なん?このクラスの人?」

好きな人がいると言うと、誰もが問う質問だ。聞かれることなんて分かっていたのに、少し胸がざわつく。

「ん、うん・・・。」

「へぇ〜。月影が恋ねぇ。しかもこのクラス?そんなにいい奴いるかな〜。」

そうつぶやいて、何の気なしに辺りを見渡す。事件を解決する刑事のように。
そして、クラスで目立つタイプの男子の名前をひと通り挙げる。しかし、その中に結弦君の名前はない。でも、いつかふとした時に当たりそうで、少しこわかった。