「ちょっと、どういうことなの!?」

昨日と同じ、学校のそばにある芝生で、私は叫んだ。
紫色の彼女は、きょとんと言わんばかりに、首をかしげるような仕草をする。

「何が?」

そして、なんでもないふうにひらひらと羽を揺らすのだ。

「何が?じゃないでしょ!教室に来たとき、どうして、ゆ・・、結弦君のまわりばっかり飛んでたの!」

「ああ、言わなかったっけ。あたし、特定の人のまわりを飛ぶと、心がみえるの。彼の心の中ばっちり見ちゃった。どう?知りたい?」

どきりとした。
知りたいに決まっている。以前から、好きな子はいるのだろうかとか、どんな子がタイプなんだろうかとかを、考えていた。心の中を覗けたらなと、ばかみたいに思ったりしていた。

でも、いざ知れるとなると勇気が出ない。はっきり言うと、こわいのだ。彼の本音を知るのが。私は、彼女の方を見た。

「ちょっと、待って。心の準備が・・・。」

「何言ってんの?そんな簡単に教えないって。月影、あなたがもし、結弦君の好きな子が知りたいのなら、ちゃんと自分の気持ちをつたえるのが先だ。そのくらいの覚悟はあるんでしょ?まさか、好きな子がいるなら失恋だから、諦めようなんて言わないよね?」

ずしりと胸に、その言葉の重みを感じた。
実はそう思っていたなんて、今更、口がさけても言えない。

「覚悟・・・?」

「そう。例えばさ、好きな人に近づいていくと自然とその人のことを、知っていくわけでしょ。そのときに、彼のタイプと自分が真逆だとか元カノがすごく美人だとか、知りたくないことも耳に入ってくるわけ。そのたびにしょげてたら、片想いなんてやってられないよ。両想いになるために、片想いしてるわけじゃないのにさ。彼のことが好きだから、片想いしてるんでし
ょう?」

そっか・・・。私には、片想いをする覚悟が足りないんだ・・・。