その瞬間、降っていた雪が桜の花びらに変わり、まるで春のような、暖かな風が強く吹き荒れ、勢い良く砂埃が立ちこめた。

砂が目に入らないよう両目をギュッとつぶり、腕で顔を覆う。

「えっ…。いったい、何が起きたんだ?ばーちゃんは無事なのか…?」

だんだんと砂埃が収まり、ゆっくりと目を開け、腕を下げた僕の視界に入ってきた光景に、思わず目を見張った。

「なにが、どうなってるんだ…?!」

そこにあったのは先ほどまでのボロボロな“旧”神楽殿ではなく、朱色に輝く立派な建物であった。

神楽殿と力強く書かれた札と、今にも踊り出したくなるほど綺麗な踊り場。

いつの間にか、その上には豪華な袴や、きらびやかな着物を来た人達が祖母を囲むように立っていた。

「ばーちゃん!無事か?!」

「私は大丈夫よ、游くん。それよりほら、後ろをご覧なさい。」

「え、後ろ…?」

うまく思考がまとまらない頭を押さえながら、ゆっくり後ろを振り返る。

すると、古びた鳥居が立っていた場所には、傾きや崩れのない鮮やかな鳥居がらんらんと並んでいた。

「す、すごい…。見事だな…。」

最後に潜った鳥居の柱を見ると、先ほどはよくわからなかった彫り物がしっかりとその原型をとどめており、それは僕の直感通り、龍の姿だった。

両方の柱に対になるよう彫られており、今にも動き出しそうなほどの躍動感にあふれていた。

「おお…!」

精巧に作られた2対の龍像をじっくりと交互に見比べる。

右の柱にあるものは銀色で、左の柱にあるものは白色で右の龍像よりもやや小さめであった。

「昔、ばーちゃんがいっていた2柱の龍神様だ…。」

ぽつりと呟く。

「游くん、こっちにおいで。」

祖母の柔らかく、踊るような声に、つられるように神楽殿の踊り場へと向かう。

祖母を囲んでいた美しい人々は、僕が階段の前までくると一斉に手を差し出し、さあどうぞ、と言わんばかりに僕の手を取り腕を絡め背中を押しで一気にハーレム状態になる。