「游くん、もうそろそろよ。」

祖母の声で、鳥居の道に終わりが見えて来たことに気づいた。

徐々に残りの鳥居が減っていくが、周りの木々のせいで辺りが暗いことに変わりはない。

「よし、行こう。」

僕は気合を入れ、車椅子の持ち手を力強くギュッと握った。

そしてついに、最後の鳥居にたどり着いた。

何気なく鳥居の柱に目を向けたら、よくわからない彫り物がされていた。

古すぎているためその形は目を凝らしてもわからなかったが、この神宮の守り神だと直感した。

鳥居を潜り終わった僕たちは一度むきなおり一礼をすると、改めて前を向いた。

そこには、古びた木造の建物が、鬱蒼とした木々の中に紛れるようにぽつんと建てられていた。

特別な甘酒を出しているとは思えないほどボロボロで、屋根は傾き、所々腐っている箇所があり、踊り場の床は穴だらけで、建物の名前が書いてあるらしき札はその字が読み取れないほど黒ずんでいた。

「ばーちゃん、本当にこんなところであってるの?」

思わず僕は、片手で車椅子を支えながら、祖母の前に回って顔を覗き込んで尋ねた。

「そうよ。ここはこの天昇龍神宮が出来たときからずっとある神楽殿でね。すっかり古くなってしまったから500年前に新しい神楽殿が本殿の近くに建てられたの。だからここはね、“旧”神楽殿と言って知る人ぞ知る秘密の場所なのよ。」

「天昇龍神宮が出来たとき…っていったら、2000年前か?!そんな建物が存在してるなんで…!」

「まだ“旧”神楽殿が現役のころは、定期的に修繕もしてたみたいだけど、新しい神楽殿が出来てからはすっかり手付かずでこんな姿になってしまったみたいよ。」

「そうなんだ。でもさ、さっきから僕ら以外に人の気配がしないけど…。」

「大丈夫、すぐにわかるわ。游くん、私に任せて、少しここで待ってて。」

「え、でも…。」

「心配しないで。」

ニコッと祖母は笑うと、車椅子の車輪をゆっくり回しながら神楽殿の入り口に続く階段へと向かう。

僕はハラハラしながらも、祖母を信じて待つことにした。

祖母は階段の手前まで来ると、ゆっくりと深呼吸をして、手すりにつかまると、車椅子から立ち上がり、何かを呟いてから1段目に左足を乗せた。