本殿の左傍にある細い路地に入る。

きれいに整備された道を、車椅子は滑らかに進む。

「次の角を右斜め方向ね。」

「斜めね。」

右斜めの道に向かうと、整備されていた道から徐々に砂利が混じった道へと変わっていった。

ぽつぽつと植わっていた木も、奥に進むにつれ段々と間隔が狭くなっていく。

先ほどまではゆったりと歩けていたが、少しずつ、人が2人並んでぎりぎり通れそうなほどの道幅へと変化していく。

「ここからはしっかり車椅子抑えてないと厳しそうだね。」

「まだまだ、これは序の口よ。しばらくまっすぐね。」

しゃりしゃりと進むにつれ、じゃりじゃり、と車椅子は立てる音を大きくしていく。

さらに10分ほど歩くと、なだらかな登り坂に入り滑り落ちないようゆっくりと確実に歩を進める。

がり、がりと車椅子の車輪が不安な音を立てているにも関わらず、祖母の指示は続いた。

「ここは右ね。」

登り坂は続き、傾斜もわずかに上がっていく。

「この登り坂、懐かしいわ。本当は私もまた歩いてこれると思っていたけど、年には勝てないわね。」

ゆっくりと坂を登りながら、ふいに祖母が呟いた。

「何言ってるんだ。ばーちゃんは足は悪くなったかもしれないけど、まだまだ元気だろ。」

「ありがとう。游くんは優しいね。」

「そ、そんな、優しいだなんて。ばーちゃんっ子だってだけさ。」

突然の言葉に、僕は一瞬口ごもる。

「照れちゃって。昔から游くんは、私と仲良く手をつないで歩いてたのよ。よくおじいちゃんが嫉妬してたわよ、俺の嫁が奪われたって。」

「ははっ。じーちゃん、そんなこと言ってたんだ。」

僕は火照った顔にかかる雪を気持ちよく感じつつ、息を切らしながら歩き続ける。

「游くん、もう一息だからね。ここは左よ。」

「ああ。」

気づいたら、僕たちは境内の奥の奥まで来ていた。

そこは暗く、鬱蒼としており、古びた鳥居がずらりとならんでいたが、それは立っているのがやっとなものや、傾き掛けたもの、崩れてしまったものなどばかりで、鳥居がならぶ道は獣道といっても過言でないほどの荒れた道だった。

心なしか、本殿よりもさらに冷えた空気が漂っている。

もちろんその景色は初めてみるもので、なんとも言えない特別な雰囲気が漂っていた。