迷った挙句包装したチョコレートを机の上に置いたまま、朝方になって私は眠ってしまったらしい。
家の前でがやがやする音と、チャイムの音で目を覚ました。

昨日のことを思い出して和香かと思ったけれど、狭そうに部屋に足を踏み入れてきたのはV5だった。
「まだ寝てたの? もう2時だよ」

カナコに言われてカーテンを開けると目が痛い。空が明るくなるまで起きてたからって、こんな時間まで寝てたんだ。
テーブルの上を指さして、ナツミが勝手に妄想を膨らませる。
「これ、チョコだよね? もしかして今からデート? まさか一晩中いちゃついてたから寝てたとか……きゃ」

「そんなんじゃないよ。で、こんな日に皆何やってるの?」
「何やってるのじゃないの。V5会欠席しといてその後連絡もなし。皆桜の事心配してるんですけど」
ハルが睨む。
う……そうだった。
会えなくてもSNSでグループを作って時々メールしあってる私達だけど、もう2か月もグループトークに参加してなかった。

「どうなってるの?」
皆実に突っ込まれて目を泳がせる。
言い訳言い訳……何も思いつかないっ

「「「全部話してもらうからね!」」」
目を吊り上げた四人に囲まれて、私はとうとう白旗を上げた。

出会った時の事から話し始めたら止まらなくなった。
もしかしたら私はずっと、誰かに話を聞いてほしかったのかもしれない。
クリスマスイベントの数日後、風邪をひいて熱を出した時の事を思い出す。

「隼人さん……」
呟いて頭を振った。熱で朦朧とする頭にめまいが加わるけれど、こうすると何も考えなくてすむ。後は泥のように眠っていればいい。

短い夢を繰り返して目を開けると普段と変わらない天井が見えた。
たった6畳のこの部屋がこんなにも広く感じる理由を、私は知ってる。
自分でさよならを言っておいて、たった3日で気づいた。

……隼人さんが好きだって。

自信に溢れた高慢な笑み、整った顔が崩れるのも気にせず噴き出す顔。私をからかう妖艶な瞳。タブレットに向き合う真剣な横顔。
すべてが大切だったのに、失うことが怖くて自分から手を放した。

彼に釣りあう自分になりたかった。だけど自信がなかった。
中学3年生の自分だったら、迷いなく彼に飛び込んで行けたんだろうか。
そんなことを考えていた。

「自信、なくて……釣り合わないんじゃないかとか思って……ぐすっ、隼人さんの気が変わったらどうしようとか怖くて……自分からさよならって、言っちゃったの」