「…百合」



立ち尽くしたままそう呟く藤原先輩と、綺麗に笑う百合さん。


…百合って言うんだ…

まって、思い出した!あの写真の、元カノさんだ…



元カノのフレーズに、一気に心拍数が上がる。



「…何しに来た?」

「うん、ごめんね、いきなり」

「……」

「私っ、間違ってたっ、」

「っ、」



そう吐き出して、藤原先輩に抱きつく百合さんは、目に涙をためていた。



「離れろ」


百合さんの体を無理矢理離して、私の手を掴む。


「俺、もう大事なやつがいるから」

「えっ、ちょっと、せんぱっ」

「…春、はるっ、待って!お願い!」



私を引っ張って歩き出す藤原先輩を、腕を掴んで引き止める百合さん。


「私、捨てられたの。健(たける)に、捨てられたのっ」


そう言って、わんわん泣き出す百合さん。

チラリと藤原先輩を見ると、百合さんをじっと見つめたまま動かなかった。



「藤原先輩、私、今日は帰りますね」


なんとも言えない空気に苦しくなる。

酸素が足りないみたい。



「…奈緒。ごめんな、せっかく出掛ける約束してたのに」

「ううん、いいんです!気にしないでください!」


そう言って笑ってみせると、ギュッと抱きしめて、「また埋め合わせするから、気を付けて帰れよ」とそう言って笑ってくれた。



何も言わずに、手を振ってその場を去るけど、本当は気になって気になって仕方がない。


チラッと後ろを見ると、藤原先輩が座り込んだ百合さんの手を取って支えていた。




ズキッ

握りつぶされたかのように痛む胸を抑えて、前を向く。



大丈夫。藤原先輩は私の事を好きだって言ってくれた。

信じてるから、大丈夫。



そう言い聞かせながら、家に帰った。