「私は…」


「…私も、中3の頃彼氏がいたんです」


ゆっくりと、喋り始める奈緒。

話してくれるんだと、少し安堵した。



「中3の夏頃、その時好きだった人に告白されて、もう嬉しくて嬉しくて。でも、それから卒業が近付くにつれて、すれ違いとか、喧嘩が多くなって…」


「うん」

「ついに卒業式の日、フられたんです。…重荷だったって。私、ほんとに彼の事好きで。好きだからこそ、言いたい事は言って、不安をぶつけたり、ヤキモチ妬いたり…喧嘩してもちゃんと話し合って乗り越えてきたのに…」


「それで満足してたのは、上手くいってるって思ってたのは、私だけで…」



「っ、それから自信無くしちゃって…私は恋愛なんて向いてない。そう言い聞かせて今日まで過ごしてきました。告白されても、重荷になっちゃいけないって。全部断ってきました」


「…だからっ、そんな自信のない私に気付いて、嫌われるんじゃないかって思うと、藤原先輩の目を、見れませんでした」



静まり返る保健室に響く鼻水をすする音。



「…泣くなよ」


とっさに抱きしめてしまったけど、抱きしめずにはいられなかった。


いつも明るくて、そんな事全然顔に出さないで考えてたなんて。


フワッと香る、シャンプーの匂い。
温かい体温に、小刻みに震える体。


守りたい。

純粋にそう思った。



なぁ、俺じゃだめなのか?

そんな事、言えるはずもなくて。