「何してんの?」



聞き覚えのある声に、ゆっくりと振り向く。





「…藤原、先輩」




ぽっかりと穴が空いた心に染み渡るような、甘い香り。


泣くのを堪えていたのに、一気に涙腺が緩む。




「…うっ、うぅ」


「えっ?!ちょ、え?!」



いきなり泣き出した私を見てあたふたする先輩は、とりあえずこっちに来い、と手を引っ張って体育館裏に連れて来てくれた。





「どうした?」


そう言って、優しく頭を撫でてくれる藤原先輩。


「うっ、…わっ、わから、っない」



ズズッと鼻水をすする音だけが、体育館裏に響く。

分からない。なんて、藤原先輩はもっと分からないのに。





「…そうか」



その言葉の後に、フワッと香る、藤原先輩の甘い匂い。


抱きしめられている。

それを理解するのに時間はかからなかった。




「うぇえっ?!」

「…うるさい、黙ってろ」



そう言って、私の頭の上に顎を乗せるように抱きしめてくれた藤原先輩は、私が泣き終わるまで待っていてくれた。