コツコツコツコツ、と廊下には私のパンプスが鳴らす音が響く。


ねぇ、絶対怒ってるよね?明らかに機嫌悪いし…
てか、絶対私がいるからだよね?
盗み聞きの事で嫌われたんだよ私…



「…あの」

「…なに?」

「えっ、と、あの時は、すみませんでした」

「…は?」



すみませんと聞いて、立ち止まって振り返った先輩と目が合う。


すぐにそらしてしまった私を見て、再び歩き出す藤原先輩。



「あの、私、帰りますね!…気分を悪くしちゃってすみませんでした」


そう吐き捨てて、帰ろうと藤原先輩の横を通り過ぎた時、腕を掴まれ、歩いてるのとは逆方向に引っ張られたと同時に、ふわりと香る、あの時と同じ甘い香水の香り。




「…え?」

「…あのさ、別に怒ってねーよ」

「えっ?…そうなんですか?」

「俺が機嫌悪いのは、あいつらせい」



あいつらとは、翔太先輩と優馬先輩の事だろう。


「まぁ、確かに盗み聞きは引いたけど」


そう言って掴んでいた腕を解放して、いつの間にか着いていたドリンクバーの前に立ち、適当にドリンクを入れ始めた藤原先輩。



「す、すみません。そんなつもりじゃなくて」

「知ってるよ」

「え?!知ってるの?!」



驚いた私の顔を見て、フッと笑った藤原先輩。

初めて見た、藤原先輩の笑顔。
横顔だけど、優しくて、綺麗だった。