女の前に立つ俺の存在に気付いたのか、目を見開いて俺を見るそいつは、あきらかにビビっていて。


なんだかちょっといじめたくなった。



「何してんの?」


そう言って、わざと口元だけニコッとすると、さらにその女は硬直して動かなかった。



いや、あの、と、口をもごもごさせながら何かを言おうとした女の言葉を遮って、俺は続ける。



「盗み聞きかぁ、悪趣味だね」



女と目線が合わさるように、しゃがみ込んだ俺の目を見て、ビビり倒して怯えていた瞳は真っ直ぐ俺を見つめていて。


そんな俺も、その女の瞳から目が離せなかった。
茶色くて大きな瞳。少し赤く染まった頬。
この学校では珍しいナチュラルメイクに、ふわりと柔らかそうな茶色いボブヘアー。




先に沈黙を破ったのは女の方で…


「ぬっ、ぬす、盗み聞きなんか、し、してません!」



噛み噛みで笑いそうだったのをなんとか堪え、反論しようとしたけど、そいつを見ると何故か言葉に詰まって、反論するのをやめてこの場を去った。