【 春人side 】




「あ、あの、藤原くんっ!」



下駄箱で上履きに履き替え、教室に向かおうとしていた俺の腕を掴んで、待って、と呼び止めた知らない女。



「…なに?」

「あ、あのね…わたし、藤原君が好きです!!」



勢いに任せて言ったのか、そう言うと顔を赤くさせ俯くその女は、きっと他の男からすれば可愛くて堪らないのだろうけど、俺はそうは思わない。




「……」

「だ、だからっ、その、良かったら、付き合ってくれませんか?」




正直、ウンザリしていた。

俺の事何も知らないくせに、好きだとか、付き合ってほしいとか。
どうせ、顔が好きなだけで本当の俺を好きになったんじゃないんだろ。

現にこうやって、一度も喋った事のない奴が好きだと告白してくる。




「無理」



そう言うと、返事が気に食わなかったのか、「どうして?」としつこく質問してくる。



面倒臭い。

その一言でしかなかった。



「どうして?…私のどこがダメなの?」


「全部」



いや、むしろどこがダメなのか分かる程お前の事知らないし。



そんな事を心の中で呟いていると、俺らの近くで足音が聞こえた。



それに気付かないのか、泣き出してしまう女を見て、ため息が出た。