【 春人 side 】



まじでなんなんだよ。


カフェの目の前に座るのは、奈緒じゃなくて百合。


泣きながら俯く百合を見つめて、落ち着くのを待つ。



驚きと、戸惑い。

この二つでいっぱいいっぱいな俺は、黙って百合を見つめる事しか出来なかった。



「…うぅ…ごめんっ…ごめん、ねっ」



さっきからそればっかり。



「謝ってばっかじゃ分かんねーよ」

「う、んっ…ごめんっ」

「…はぁ」



カフェに着いてから15分。

カフェの店員や客に睨まれる俺。


完全に悪者扱いされている。



「…すきっ、なの、はるが」

「…それも聞いたから」


コーヒーをとっくに飲み干している俺は、店員に同じコーヒーを頼む。



「何も話さないなら帰るけど」


首を横に振る百合は、泣きながら俺を見つめて口を開いた。



「…酷いことっ、いって、ごめんっ」

「でもっ、ほん、とに、好きなのっ」


「…さっきので分かったと思うけど、俺は奈緒が好きだから。だから、百合とやり直す気はない」


「…うんっ、分かってる、でもっ、諦められないよっ」



ふと蘇る、あの頃の俺と百合。

今では完全に思い出で、今は奈緒と新しい道を歩んでる。


これからも奈緒の側にいたいし、奈緒にも俺の側にいてほしい。



「俺は百合の気持ちには応えられないから」



そう突き放して、お金を置いて店を出た。



はぁ、とため息をついて歩く。


…何してんだよ俺は。


優先するやつが違ってるだろ…



とことんバカな自分に嫌気がさす。


明日、謝ろう。



そう心に決めて、家に帰る。