高校入試当日の朝、いろんな人からラインがきていた。
みーちゃんの長文はすごかった。同じこと何回もいうもんだから後半はちょっと笑いながら読んでたけど、最後の「穂積なら大丈夫!」という文句にはじわじわと胸が温かくなった。なんだかんだ私をよく見てくれているのはみーちゃんだ。

学校までの道のりは全く遠くない。中学に比べればなんのそのだ。駅6つは遠すぎる。
徒歩5分圏の高校は、すでに人がまばらに入っていて、そろそろ混み始めるかなという感じだった。
普段どおり、と念じながら校門を潜ろうとしたとき、どさっと物が大量に落ちる音がした。

振り向くと、女の子が筆箱やらを撒き散らしていた。慌ててかき集めて校舎に入ろうとしている。ふと視界に受験票が目に入った。彼女はそれに目もくれない。
気づかないまま歩き出そうとした彼女を慌てて引き止めた。

「お姉さん、受験票落としてるよ」

「えっ、あっ、ほんとだ!あぶなー…ありがとうございました!」

受験票を渡すと、すごい勢いで礼をして飛び出していった。なんだあれは。
あっけに取られながらも自分の受験教室に入ると、自分の目の前の席にあの彼女がいた。私の顔を見て、困惑している。

「また会ったね、お姉さん」

「え、えと。はい、そうですね」

「私、氷渡(ひわたり)穂積っていうの。お姉さんは?」

「む、向井香澄(むかいかすみ)、です。あ、あのっ。さっきはありがとうございました!」

がばっと頭を下げた衝動で机に頭をぶつけた。絶対痛い。
大げさだ、と伝えると、自分がいかに感謝しているかを身振り手振りつきで説明してくれた。真面目な子だな。

「今日はお互い頑張ろうね」

「はいっ」

にこり、と笑った香澄ちゃんはとても可愛くて。モテるんだろうな、と改めて思う。もちろん、中身も総合して。
試験監督が教室に入ってきたのを機に私は前を向いた。試験問題の紙が目の前に配られて、中学受験のときを思い出した。

落ちればいいな、なんて、思ってたな。
そうすれば君の隣にいれたかもしれないのにな、なんて、今更思ったりね。

試験開始のチャイムの音を聞きながら、シャーペンをノックした。