中学3年。小学校を卒業して3年になる。
あれから彼とは連絡をとっていない。というか、その手段がない。
人から又聞きした話だと、もともと頑張っていた野球でさらに強くなるため県外の野球が強い高校に推薦が決まっているとか。リトルリーグでもシニアリーグでもかなり活躍していたから、当然かもしれない。
もう試合を見に行くことはないけど、彼はどこに行ったって、私の目にまで届くほどの光を発し続けるのだろう。
HRの終わりを告げるチャイムが鳴り、各々が教科書をカバンに詰め込んで教室を出ようとする。
背中を指でとんとんと突かれた。
「穂積(ほづみ)、一緒帰ろ!」
「うん。すぐ用意するから待ってて」
机の中に入っている教科書をカバンに押し込み、友達とともに教室を出た。
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「穂積さー、内部進学しないってほんと?先生たちに猛反対食らったって聞いたけど」
「まぁね。ちょっと家で財政危機が起こっててさ、私立の金は払えねーって父さんが言ってたの」
「それでわざわざもっかい受験かー。なんのために中学受験したのって感じだね」
みーちゃんの言葉に苦笑いしながら校門をくぐる。そう、私たちはこの中高一貫校で高校に内部進学する権利を持っている。けれど、私はそれを放棄する。
受験するのは、家から一番近い公立高校だ。頭がいいとこだから、受験勉強もそれなりに忙しくなる。
「K高校だっけ?あそこ授業難しいって有名だけど、穂積なら大丈夫か」
「どうだろうね。まだそこまで想像できないや」
少しだけ先のことだけど、今の生活と一変すると考えたら想像もできない。果たしてどう変わるのか、考えることも厭わしい。
変わらないことが一番いいのに。けれど私も周りは、いつもそれを許してくれない。
「高校入っても遊ぼうね。また国立図書館でいろいろ巡ろ!」
「あれ楽しかったねー。また行こ。」
電車の路線が違うからみーちゃんとはここでお別れだ。ばいばい、と手を振りながら、お互い背を向ける。そしてスマホを開いて、ニュース一覧のページを開く。大手新聞社の記事とかではない。小さな野球シニアチームのブログだ。
《我がチームの不動の正捕手、望月颯太(もちづきそうた)くんが、あのS高校野球部に入学決定!おめでとう!高校での活躍を期待しています!》
背、伸びたな。と、添付されていた写真を見て思った。
二度と見ることはないと思っていた笑顔は、すぐにまた見ることになった。ネットってすごい。
『おめでとうございます。ぜひ、甲子園で望月さんがバッターボックスに立つ姿を見たいです』
忘れよう、なんて言っていたのはどこのどいつだ。私だ。
なのに懲りずに、ブログに彼に対してのメッセージを残している。3年間で、何度も。
「やっぱバカだ」
送信したあとにそんなことをつぶやいて、スマホを閉じる。
簡単に捨てきれないから、厄介なんだ。