「お風呂、沸いてますよ~」

 後ろでうんと聞こえる。顔をみていたらイライラするのだった、見なければ良いのだ、そう思って、私は食器を水につける。

 ああ、久しぶりの対面なのに!だけどだけど、落ち着くのよ都。前々からヤツはこんな野郎だった・・・ってことは、私がやっぱり短気というかバランスが狂っている状態なのだろう。何と言うか、とても役に立つ母親が二人も手伝ってくれている今、ダンナってなんで必要なの!?とか考えてしまうわ・・・ダメダメ、ダメよ、そんな罰あたりな!

 無表情にイライラする。

 無口なのにイライラする。

 リアクションがないのにイライラする───────────

 台所に立ったままで、ゆ~っくりと深呼吸をした。

 息を吸って~吐いて~吸って~吐いて~・・・・ふううううう。とにかく落ち着こう!

 彼は今までと同じ。イライラするかしないかは、私一人の問題なのよ!

 とにかく、ヤツは私達親子にかかるお金を稼いでくださっているのだから!そうブツブツと自分に言い聞かせていたら、隣に立って残りの食器を水につけていた彼が、ヒョイと私を見た。

 そして、無言のままですっと右手を伸ばす。

 その、私とは全然違うゴツゴツした手が私の頬にかすって──────────全身におぞ気が走り、私は、驚いて悲鳴をあげてしまった。

「うきゃあっ!?」