ヤツはヒョイと肩をすくめた。・・・うん、ああ、そうそう、こんな感じだったわね。私は少しずつ、二人で生活していた時のことを思い出しつつあった。子供が生まれてからはいつでも明るくお喋りな両家の母親に囲まれて、自分から口を開く必要がなかったのだ。うわー、二人も人間がいるのに静かとか!久しぶりだわ~!ちょっと感動すらした。

 でも・・・何というか。うーんと・・・こんなに、喋らない男だったっけ?改めてそう思って、私はついマジマジと夫である男を眺める。

 しーん・・・・としているのだ。ほんと、静寂。娘の静かな寝息や、時計の針の音が聞こえるくらい。

 ヤツは淡白で無感動な表情でご飯を平らげていく。その表情からは今日の仕事はどうだったのか、嫌なことがあったのか、それとも嬉しいことがあったのか、今食べているご飯を美味しいと思っているのかそれとも不味いと思っているのかなどは、ちいーっとも判らない。ついでに今言えば、私がこうして久しぶりにヤツと向かい合わせで座っていることを喜んでいるのか邪魔に思っているのかも判らないのだった。

 ・・・何か、ムカつくんですけど。

「今日はお仕事どうだった?」

 眉間によってしまう皺を意識的にのばしながら私がそう聞くと、ヤツは少しばかり首をかしげる。それから呟きで返事をする。

「いつもと同じ」

 その、いつもを私は知らねーんだよ!とは口に出さなかった。頑張った会話もこれで終了だ。まったく、本当に何も話さない男だわね!私は若干イライラしながら、ヤツが食べ終わったらしい食器を持って立ち上がった。