「チビ!帰んの?」


リハも終わったのか
音はなくなって
人だかりもバラける。


「本番3時半からやるけど」


時間押したんだ。

どっちにしろ
3時半じゃ見れない。


「仕事!」


ぼくは時計を指差しながら
走り出した。


お兄さんは
またマイクを使って
ぼくの背中に話しかける。


「俺、シド!」



「ヴィシャスか!」



しまった。
いつものクセで
思わずツッコンでしまった。
恨むぞ店長。

プッ、と吹き出す音が
聞こえた。



ぼくは振り返らないように
まっすぐ前を見て走った。







あの、リハを観ていた間


ステージ横に居た
Aくんの姿がぼやけた。


目の前にいる
シドの姿が輝いていて


あまりにも綺麗すぎて


Aくんの姿がぼやけた。







あの日
ぼくはシドに出会った。


―…シドは今も
ギターを弾いている。

ぼくは毎晩
それを聴いている。


ヘッドホンから流れる
その音を


ぼくはもう二度と
隣で聴くことはないだろう。