だって最初から
叶うことがないと
わかってたんだから。

Aくんにはちゃんとした
彼女がいるってこと
知ってたんだから。


例えようがないこの気持ちを
誤魔化すために
ぼくは立ち上がって
外に出た。


戻るには
またあのCD屋の前を
通らなきゃいけない。


…見ちゃダメだ。
絶対に見ちゃダメ。

見たらまた
困らせてしまうでしょう?




「……あ」




外の空気を伝って
ぼくの耳に
入り込んできた音。

ギターの音。
ベースの音。
ドラムの音。


リハが始まったらしい。


音につれられてぼくは
さっき絶対に見ないと決めた
野外特設ステージに
目を向けた。


リハだというのに
すでに人だかりが出来ている。


…よく見えない。


ぼくは近寄って、
人だかりに
混ざろうとしたけど
背が小さすぎて見えない。


「うー」


唸りながら爪先立ちしても
ギターの人の頭の先が
ギリギリ見えるくらい。

ステージに段差がないから
インストアライブって
これだから困る。