「一緒の大学に行きたいと思っている人がいるって言われたんだ。あの日」


あたしは頷きもせず、ただじっと杉本の話を聞いていた。


「大学とか。しかも東京の。やっと高校まで追いついた年下の俺なんかに敵う訳がない」


少し寂しそうな顔でふっと笑う。


「俺はさ、あのとき、きっと辻に助けられたんだ。この屋上で」


黙り込んでいるあたしを、杉本はじっと真剣な顔で覗き込んでくる。


「咲って一ノ瀬のことだろ? おまえはホント、よく頑張ってるな」


そして頭を数回、ポンポンと叩いてきた。


「———っ」


何かの糸がプツリと切れてしまう。

涙が止まらない。 このことではもう出つくし枯れたと思っていた涙が、ぶわっと一気にまた溢れだしてしまった。

ふたりのことでは、もう決して泣かないと思っていたのに。

だけど次から次へと溢れ出る涙は、一向に止まりそうな気配がなくて。

杉本は黙って、あたしの頭を優しく撫でてくれる。


ずっとやさしく。
きっとあたしの涙が止まるまで、ずっと。


「…ありがとう」


どれくらい経ったか。
ようやく涙も止まり、だんだん平静を取り戻してくる。