『——なに言ってるの?』


状況を把握できないまま、そして遼汰の口から出て来る言葉を……、違う。

これまで見せたことがない遼汰の真剣な顔をぼんやり見ていた。

ようやく頭が回ってきたけれど、状況がイマイチ把握できていないあたしが、涙なんて出るわけもなく。

だけど遼汰の好きな人が、あたしも大好きな咲だと聞いたとき涙が溢れ出た。

どこかの、誰も知らない人だったら、どんなによかったか。

そしたら咲に泣きついて、カラオケに行ったり買い物に付き合ってもらったり。すっきり出来たのに。

神様はあたしにだけ、意地悪だと思った。


「あんとき、隣のテーブルにいたんだ。俺」

「——え?」


呆然とするあたしをチラリと見ながら、杉本は話を続ける。


「おまえは男が出て行ったあと———。しばらくしてから雨の中、持ってた傘もささずに帰って行った」


ああ、思い出した。

家に帰ったら「傘壊れたの?ずぶ濡れじゃない」ってお母さんに言われ、そのとき傘を持って出ていたことに気付いて笑えて泣けた。

思い出したくないと努力していた、あの日のこと。


「俺は、由香に…」


重い口を開くかのように、ポツリポツリと話し始める杉本。