「気に入った?」


あたしの記憶をどんなに辿ってみても、こんなにきれいな夕焼けを見たことがない。


「ありがとう」

「今日みたいなキレイな夕焼け条件の日って、滅多にないから」


すぐそばで聞こえる杉本の声だけれど、こっちを向いている様子はない。


「本当は夏よりも秋の夕焼け? そっちの方が綺麗。ほら、歌にもあるじゃん」


そして杉本は童謡の“夕焼けこやけ”を口笛でふいたけれど、音程が難しいと言って途中でやめてしまった。


「夏よりも秋の方が空気が澄んでるから、きれいに見える」


杉本は、この場所で何度も夕焼けを見たことがあるのかもしれない。そんなことを少し思う。


「だけど今日ってさ、ほら、台風の後だろ? 台風の後って、きれいな夕焼を見るのに好条件なんだ」

「…そうなんだ」


いまはまだ、夏だけれど。

杉本の言葉に、ここから秋の夕焼けも見たいと思った。


「おまえツイてるな」


頭をコツンとぶつけてくる。
もう暗くなってしまったので、杉本がどんな表情なのかが見えない。

ちょっぴり残念。