「ねえ、杉本」

「いま何時?」

「6時40分」


あたし達の会話は、やっぱりこんな感じ。もう慣れた。

そして視線を落としてみると、アスファルトに映る影。

この季節はまだずいぶん明るいけれど、足元から伸びる影はもう長く伸びていた。あたし達が映し出されているそれは、やたらとスタイルがいいふたりが並んでいるようにも見えた。


「いそぐぞ」

「——え!?」

「間に合わない」

「なにが?」

「ついてこい」

「まってよおおお!」


“知らない人にはついて行っちゃいけない”と昔、母に言われた言葉をふと思い出した。

杉本は知らない人ではないけれど、今の状態を何の不信感も抱かず並んで歩いる。だからそんなことを思い出したのかもしれない。やっぱり、少し笑える。


それから特に話をするでもなく。見慣れた街並みを早足、というよりは駆け足に近いよ。

会話がないのはいつものことなので気にもならなかったけれど、すこし息があがる。

あたしの歩調の早さまで気にしてくれているのかどうかはわからないけど、ついていけないほどでもないはなかった。ひとまず履きなれた靴をはいててよかった、と思う。


どれくらい歩いたのか。

あちこちの家から夕飯支度の香りがして、あたしのお腹もそれに反応しはじめていた。