「全部レンタル中だ〜。ねえねえ遼ちゃん、これ見たことある?」


あ。

聞きおぼえのある声。
手に持ってるのは最近入荷したばかりの新作映画だ。公開初日に遼汰と見に行ったやつ。


「あ〜〜…。それ見たけど、あんまりだったかな」


あのとき、映画をみた後、「面白かったね」と映画内容についてあれこれ一緒に語ったくせに。

ま、いいけどさ。

返却作業を手早く済ませていると、咲があたしに気付いたようで声をかけてきた。


「あ、マコ……」

「こんばんは」

「ここでバイトしてるの?」

「ハイ♪」


かなり自然に出た営業スマイル。

2人でいるところを見ると、もっと動揺するのかと思っていたけれど…。目の前にしても結構普通でいられれる。ほとんどと言っていいほど動揺しなかった自分に驚いた。

もっと抑えられない感情が湧き起こったりするものだと思い込んでいたのに肩透かしをくらった気分。だけど同時に、あたしと咲のあいだにハッキリと溝ができてしまったんだろうなと思えた。単によそよそしくなっただけなのかも。

そんなふたりに少し頭を下げカウンターへ戻ると中嶋くんが話しかけて来た。


「さっきの人ら友達?」

「元カレと…、元親友かな」


なにかに気付いたのか、中嶋くんはそれからなにも聞いてこなかった。

どこか悲壮感でも漂わせていたのかな。そんなことないと思うのだけれど。

あたしは、元のように仲良くなることは無理だとしても確実に前へ踏み出しているんだと思えた。