「あの……駅は、反対方向です。
こっちじゃなくてあっち……」
そう言ってさっき来た方向に指を指した。
紛れもなく総支配人は、迷子になっていた。
違和感を覚えた時に早めに声をかけるべきだった。
方向音痴の彼が送ってくれるなんて
無理な話だったのだ。
「えっ?あっちじゃないのか?」
「いえ、真逆です。駅に行けるどころか
どんどんと遠ざかっています!」
キッパリと否定をする。
これじゃあ、終電に間に合わないよ……。
総支配人は、
「そんなはずは……」
まだ納得いかないのか頭をかきながら
考え込んでしまっていた。
若干恥ずかしいのか頬が赤くなっていた。
それを見てフフっと笑ってしまう。
「どうしてタクシーに乗ろうとしなかったんですか?」
それなら迷うこともなかったのに。
するとピクッと反応をする総支配人。
うん??
不思議に思いジッと見る。
「お前は、電車出勤だろ?それなら
タクシーより電車の方がいいだろうと思ったからだ」
言いにくそうに話してきた。
えっ……?
余計意味が分からない。
電車出勤だからって、必ずしも電車で帰らなくても
別にいいのだが……?
「総支配人……?」