私には親友と呼べる友達が昔からいなかった。それどころか、女子特有のグループもいうのにも入った記憶はない。別に入りたくないわけじゃないが、どうしてもタイミングが分からない。
決していじめられていたわけではない。
話そうと思えば話をすることだってできる。
「明日の時間割ってなんだっけ?」とか、
「体育きつかったねー」とか。
でも、移動教室を誰かといった記憶はないし、わざわざ他クラスから話に来てくれる子なんてもちろんいないし、お弁当もいつも一人で食べた。暗い子だと思われたくないから、前を向いて、でもどこも見ずに、誰とも目を合わさずにすむように、自然体に見えるように精一杯気をつけて...私は1人でも大丈夫なんだって顔を精一杯作って...誰も見ていないのに。
誰も見ていないことなんて、分かりきっているのに。

周りに私の印象を尋ねると、大概が「勉強できる人」となる。
それはつまり、私の内面は誰も見ていないってことだ。


「寺西さんって何でもできるよねー。」
「ねー、羨ましいなぁ。」
「私も寺西さんくらい勉強できたらなぁ!」
「無理無理!あんたはいっつも平均程遠い点数でしょ〜」
「そんなん分かってるって〜」

遠くで聞こえてくる声。
1人に慣れている人だけが分かることだけど、こういう噂話の声は本人達が気付かないうちに結構大きな声で話してしまっているもので、遠くにいても聞こえるものだ。
頭の中で聞こえた言葉を反芻する。
「寺西さん...」
まだ、寺西さんなんて呼ばれてんだ...私。
かすかにショックを受ける。もう9月だし、さすがに真理ちゃんってくらいは呼ばれてると思ってた。まぁそれも、普段名前を呼んでくれる人がいないからなかなか分からない。


何度、平凡を望んだことだろう。
頭の良い人ってだけでどこか引かれる線があって、私はその中に入ることはできない。ただでさえ口ベタな方なのに、向こうから線を引かれてしまっては、入れるはずもない。