前に屈めていた体を起こして、水が付着した指で蛇口を閉める。

隣では唇を“んぱっ”とした美月が、鏡とにらめっこしていた。

「秘密にするよーな事あったっけ?」
「だろーね。返事適当だったもん」
「え?まじ記憶ないし」
「ま、いーや。説明面倒臭い」


リップをクルクルと回して中身を引っ込めると蓋をして、美月は先にトイレのドアへと向かう。

ちょい待って!と、ポケットからハンカチを取り出しながら後を追う。



トイレから出て右に曲がる。
まだ誰も居ない廊下の窓はずらーっと全開で。
朝露の混じった冷えた風が、床(フロア)に射し込んで
縫うように足元(ここ)に絡み付いた。



美月は足を止めて廊下の奥を眺めていた。

ササーっと木の葉が風に揺れる音が入り込んできた。

ふわりと揺れる柔らかな美月の髪は、女子と男子の憧れを一身に受けられる
魅力の1つだったりする。