私は道行く人達を見回した。まだ誰も私たちの前で立ち止まる人はもちろんいない。

マジでやるの?!ぶっつけで?

まだ半信半疑の私の横で、二人は準備万端、私のベースからもコードが延びてる。

スピーカーに、繋がってる。

この指が弦を弾けば、あそこから音が出てしまう。そう実感した瞬間、すっごく怖くなった。
この指が出す音が、海斗や紅志の音楽とちゃんと混じり合えるのかな。

あぁっ、ヤバい!今更だけど緊張してきた!

私の指は、小刻みに震えだした。

あまりの緊張に両手を固く握り締めていた私に気付いたのか、スッと近付いてきたのは紅志。
今日も帽子をかぶっていて、その表情はよくわからない。
けど、纏っている空気はすごく柔らか。その漆黒の瞳が真っ直ぐに私を見て、目の前で彼の唇が動いた。

「アイツの声についていけ、大丈夫、弾けるから」

柔らかく微笑んで低い声でそれだけ囁くと、クルリと向きをかえて、海斗の左側へ戻ってしまった。

驚きながらも私はその言葉を頭の中で繰り返す。



声についていく……?