「歌夜!?どうした?」

突然立ち止まった私に気付いた海斗と紅志が、怪訝な顔をして私のところまで戻ってきてくれた。私が右手を押さえてるのに気付いて、海斗の顔が険しくなる。

「うわ、ホットコーヒーかかってんじゃん!なんで!?」

声を荒げた海斗が今まで見たことないくらい険しい表情をしてて、私は思わず。

「ご、ごめんなさい。私が悪いんだ、ボーっと歩いてたからぶつかっちゃって……」

「まじで?大丈夫かよ~、相手はどこ行ったんだよ!?これかなり痛いだろ?今日はライブいいから病院行け」

海斗は私の手を見ながらそう言った。

「で、でも!私……」

弾きたい!

その言葉を声に出す前に、今度は紅志の声。

「いいから病院に行け。2週間後、お前がいなきゃライブが始まんねぇだろ?火傷を治す方が先だ」

優しい声で言う紅志の顔を見て、私はおとなしく頷いた。

「わかった……でも、一つだけお願いがある」

そう言って私は二人に手を合わせた。





曇った空の下。
道行く人の顔もどこか頼りなげ。そんなどんよりとした空気の中、一筋の光が差したような。
そんな海斗の、歌声。
足を止める人達の顔を少しだけ、明るくする声。
そして、海斗と紅志を囲むみんなの顔をキラキラと輝いた顔に変える、声。