と、そんなこんなで翌日の路上ライブ。今日は朝から曇り空で、なんとなく気分も憂鬱。
「ねぇ、今日ホントにやるの?雨降りそうだよ?」
「やるやる!だ~いじょうぶ、俺めちゃくちゃ晴れ男だからっ!」
「ホントかよ?」
楽器を背負いながら歩く私たちは、いつもの場所に向かってた。
それにしても空の向こうが薄暗い。あと数時間もすれば雨が振り出しそうな天気なのに、海斗は全く気にしてなかった。
なんて脳天気な人だ……とてもじゃないけど年上に思えない。
もちろん、外見は立派な大学生なんだけど、いまいち中身がそれについてってないみたいだ。
な~んてことを、前を歩く海斗の背中を見ながら思う。
ガヤガヤと騒がしい雑踏の中、この二人と一緒にいられることがとても不思議な感じだった。
海斗のふわふわした茶髪と、ダークブラウンのハンチングをかぶった紅志の小さな頭を交互に見つめてたら……。
ドンッ!
「あっ、ごめんなさい!」
誰かの肩にぶつかってしまった。私がよそ見してたからだ。
でも、反射的に謝った私の耳に、信じらんない言葉が飛び込んできた。
「うぜぇんだよ、ブス!下手くそなくせに。海斗たちに媚びうってんじゃねぇよ」
目を丸くして声の主を振り向いた。その瞬間。
バシャッ。
「あっ、つ!熱いっ!」
私の右手、熱い液体がかけられてた。
「ば~か!ざまあみろ!」
一瞬だけ見えたその顔は、いつも路上ライブで見る女の子だ。私は声も出せずに痛みに耐えて彼女が逃げてくのを見てるしかできなかった。