彼が急いで取り出したのは一枚の紙切れ。
「え……ちょっと待てよ!わざわざメモってきたわけ!?決め台詞を?!」
紅志の横に立ってた珪甫が、有り得ないって顔で叫んだ。
「ダサッ!ダサすぎるよあんたら2人!てか忘れんなよそんな大事な台詞!あり得ねー!!」
「わ、わりぃ……」
狼狽する紅志。
何故か照れ笑いの海斗。
そして呆れ顔の珪甫。
そんな3人の顔を交互に見て私は。
「…………ぶっ。ふふ、あははっ!!ばっ、ばかじゃん……くくっ!」
堪えていた涙は、笑い声と一緒に溢れた。
なんか……よくわかんないけど、海斗たちは私がバンドにいてくれていいんだ、って。そう思ってくれてるんだってこと、すごく伝わってきた。
無性に嬉しくて、次から次へと涙が零れ落ちた。
笑い声に乗って。
「ちょっと、そんなに笑うなよ歌夜!こら!俺と紅志はな、この台詞考えんのに一晩かかったんだぞ!?」
「一晩?!一晩って言った?!マジあり得ねー!この台詞マジ?!」
紅志の手元を覗き込んだ珪甫が堪えきれずに吹き出した。その横でバイクのハンドルに顔を埋める紅志が見えた。
「だから俺は反対したんだ、こんな台詞」
そんな呟きが聞こえた気がした。