私は戸惑いながら海斗の顔を見た。口元は笑っていたけど、その焦げ茶の瞳は相変わらず真剣だ。
「俺らは、歌夜が下手くそだなんて思ってないよ。1週間前、歌夜はあの場所でちゃんと1曲弾けただろ?しかも生まれて初めて持ったベースで」
私は無言で微かに頷いた。
「それってすごいことだよ?たった2週間で、しかも合わせる練習もしてなかった。なのに俺たちにあれだけ合わせられたんだから。歌夜はたぶんセンスがあるんだよ。な、紅志?」
海斗が視線を紅志に向ける。つられて私もそっちを向くと、煙草に火をつけながら紅志が吸い込まれそうに黒い瞳を私に向けた。
「ああ。俺と海斗はお前のこれからのオトに惚れた、ってわけだ」
ふわりと笑みを浮かべたその顔は無理して言っている顔じゃなかった。
「……ありがと」
なんか、泣きそう。
私は潤みだした目を隠そうと、思わず俯いた。嬉しいのと照れくさいのもあって顔も赤くなってたはず。
そんな私に気付いたのか気付いてないのか、海斗の手が私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「ってことでさ!バンド名は“PRISONER”だけにしない?短い方が覚えやすいし、どう?」
海斗が提案する。
私はもちろん頷いていた。
「うん。それでいいと思う」
そして隣に座ってる紅志はひとこと。
「賛成」
そう言って煙草の煙をゆらりと吐き出した。
「よしっ!じゃあ決まり!」
満面の笑みで手を叩いた海斗は、テーブルの上のサイダーの残りを一気飲み……。
「ブハーーッ!!ッゲホッ!!」
「いやーーっっ!?何やってんの!うわっきったな……噴き出さないでよ!いや~っ!!最悪だよ海斗!」
「あっはははっ!!」
サイダーを吹き出した海斗、立ち上がって悲鳴をあげる私、それを見て笑い出した紅志。
そんな3人で私たちのバンドは始まった。
“PRISONER”として。