「腕の具合はどうだよ、ドラマーくん?」
わざとらしい口調で珪甫を見た敦士はニヤリと唇を歪めた。
「……っ!!」
珪甫が何か言うより先に、紅志の腕が敦士の胸倉を掴んでた。
目が、ヤバイ。
でも、今にも殴りかからんばかりの紅志を止めたのは、珪甫の落ち着いた声だった。
「やめてよ岡崎さん。そんなくだらない奴のために大事な腕使わないでって、誰かさんに言われたの忘れた?」
自分の腕、傷つけるように指示した張本人目の前にして、ムカつかないはずないのに。あくまで、落ち着いた様子の珪甫は、その上ニッと笑顔まで浮かべて見せた。
……ケイ、強い。
私は言葉もなく、口をポカンと開けて彼を見てた。
その珪甫の言葉と表情に、紅志は敦士の胸倉から手をゆっくり離した。それからもう一度、敦士を鋭い視線で睨みつけてから低い声音で囁いた。
「そうだったな。こんな……裏でコソコソと工作しなきゃ勝負もできねぇ奴相手に、俺の手使ってたらもったいねぇよな」
フッ、と見下したような笑みを敦士に向けた後、紅志はストンと再び椅子に腰を下ろしてしまった。
そして何事もなかったかのように、またギターをいじり始める。
「岡崎っ、てめぇ……!」