俺は自分のしていたベージュのマフラーを彼女の首に巻きつけ、そして隣に腰を落とす。
「…あの人にもらったマフラー、捨てなくちゃね」
また涙を滲ませた彼女の溜息に、パクリ。俺は空中で食べる真似をした。
「幸せいただき」
すると今にも触れそうな距離に顔があって。
俺はそっと、彼女に唇を重ねた。
後ろのLEDライトは赤に変わり、点滅するそれはまるで危険信号。
一瞬で離れると、彼女の冷たくて乾いてて、だけど柔らかい唇が開く。
「…計算なの?」
「…バレました?」
ふっ、と顔を見合わせて笑った。
あの子を想い続けた5年間はきっと、この人と出会うための時間だったんだ。
失恋はきっと、この人と痛みを共有するための経験だったんだ。
「そのマフラー、して帰って。」
「えっでも…」
「だから次会う時、返してください。」
「…計算なの?」
「バレました?」
-END-