「…はぁ」
彼女が溜息を吐くと、前に回り込んだ俺はかがんで目線を合わせた。
「溜息吐いたら幸せ逃げるんだよ」
さっき自分も吐いてたくせに。
現金なことを言うと、彼女はさっきよりも大きな粒を作って、ぽたぽたとたくさん落とした。
「もう…逃げちゃった」
なんとなく、わかった。彼女の涙の理由。
「…どうしたの?」
敢えて問いかけると、想像通りの答えが返ってくる。
「失恋、しちゃったんだ…」
俺は優しく微笑んで、「僕もです」と言った。
すると彼女は眉を垂らして、真っ赤の鼻をして、情けない顔で、笑った。
「同じだね」
あの子を想い続けた5年間はきっと、この人と出会うための時間だったんだ。
失恋はきっと、この人と痛みを共有するための経験だったんだ。
そう、思った。