家に帰ると、兄ちゃんの靴があった。部活は午前中だけで終わるって言ってたから。

今はあんまりあいつの顔なんて見たくはないけど。


「いく兄、おかえりー」

ソファの上で寝転がっている兄ちゃんの足元で、名菜は漫画を読んでいた。

珍しく少女漫画なんて読んでいる。


「郁、今日は遅いんだな」

「……母さんは?」

「買い物だよー」

「……郁、おまえ、どうした?」


兄ちゃんの顔を見たらつらくなったんだ。涙が出そうになるのを寸前でこらえていた。

だけど目はヒリヒリしているから、多分赤くなっている気がした。


「別に、なんも」


そう言って階段を登る。

後ろから兄ちゃんの声で「名菜、行ってこい」って聞こえた。

「ラジャー!」

その後で名菜の足音も聞こえてきた。


名菜もなんなんだよ。兄ちゃんの時なんてゲーム放り投げて追いかけていったくせに、俺の時は指示されてから追いかけるのかよ。