「どこがいいんだよ、あんなやつ」

「……史弥くんのこと、嫌いなの?」

「別に。そうじゃない」


兄ちゃんのことはムカつくけど、好きか嫌いかと聞かれると、嫌いではないんだと思う。

そもそもが家族なんだし、俺にとってはただ一人の兄ちゃんで、まあ仲も良かったし。


「嫌いではないけど、腹が立つんだ」


「わかるよ、私の兄ちゃんもそう。腹立つんだけど、嫌いじゃないんだよね。

これってなんなんだろうね。そして私らがこう思っていることも、兄ちゃん達はきっと気がついていなくてさ。

そういう鈍感な感じも腹立つの」


「うん、わかる。そうなんだよね。あいつらなんなんだろうね」


怜香はふふっと笑った。


「……もう大丈夫?」

「うん、とりあえずは」


「……兄ちゃんのことなんてさ、もうやめちゃいなよ」


少しだけ勇気を出して言った一言だ。

不謹慎ながら、怜香が兄ちゃんを諦めてくれたら、俺にも可能性があるんじゃないかなって思ったんだ。


「簡単にやめられるなら、こんなに苦しい思いなんてしないよ」


そうだ。俺だって同じ。

怜香を簡単に諦められたら、とっくに諦めているもんな。でなきゃ今頃、こんなに胸が痛んだりしないだろ。


今日こうして改めて、俺は失恋しているという現実を思い知らされたのに、それでもまだ怜香のこと想ってる。


ホント、報われない。