怜香は階段を登り、賽銭箱には向かわずにご神木のある方向へ向かった。

そこにはベンチが置いてあり、自転車の持ち主であろう女の人が座って絵を描いていた。


ちょうどここからは海が見えるんだ。俺は初めて知った。


夏のとても青い海だった。


「いっくん、戻ろう。先客がいるね。ここって結構人気スポットだったのかな」

「ベンチに用があったの?」


綺麗な景色を見つけたから、俺に教えてくれたのかなと思った。

いや、だけどなんでわざわざ俺に?


階段を降りながら怜香は話す。


「C組のさっちゃんわかるよね?

あの子の家って4丁目でしょ?だから教えてくれたんだけど……

たまにだけど朝、学校に行く前に彼女とここに寄っているんだって。史弥くんが」


怜香は続けて俺に、知ってた?と聞いたけど、俺はほんとに知らないから首を振った。


兄ちゃん、彼女いたんだ……


頭の中がだんだん真っ白になっていく。

怜香に何て言えばいいのか、それどころか俺自身が今何を考えているのかわからない状態になった。