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ある日、一目惚れをされた。
『した』ではなく、『された』。
出会いの場は生まれ育った村で。
ある夜のことだった。
村中に響き渡る悲鳴。なんだなんだと外に出る住人たちを、笑いながら殺していく男がいた。
女子供も容赦なく、果ては犬猫さえも、とりあえず手に届く範囲にいれば男はその手腕でねじ伏せる。
人外ほどの握力に、速度と反射神経。応戦する人もいたが、ことごとく返り討ち。
屋敷、二階の窓からその様子を眺めている身としては、男が獅子の類に見えたものだった。
そういえば以前、王都より指名手配されている殺人鬼が二つ先の村に現れたと聞いたことがある。
何百もの人を殺し、一度は捕まったものの、逃亡。あの絶対正義と謳われる自警団連中相手にやり合っただけのことはあるらしい。男はそれ以上に冷酷無慈悲の悪だった。
外だけでなく、誰とも知れない家の中にも押し入る。二階の窓から助けを求める婦人を引きずり戻し、返り血を浴びた奴が入れ替わりで出てくる。
相変わらずの哄笑。天を仰ぐかのように両手を広げて、面白おかしく笑ったところでーー私と目があった。
あ、と思う。
それは相手も同じだったか、哄笑が止まる。
つかの間の静止。時が止まったかのように思えど、男はすぐさま動き出す。
目的地はこの屋敷。私がいる場所だ。
獲物を見つけられてしまったか。
屋敷にいた住人の悲鳴が一階から二階と、段々と近付いてくる。
ノック知らずの男は、扉を蹴破り入ってきた。鍵などかけていないのに。
ずかずかと私の前まで来た男。ここで死んでしまうのかと思っていたら。
「わりぃ。お前のこと、好きになった」
そんな、謝罪が混ざった告白をされてしまった。
自身は悪人と自覚しているからこその謝罪であり、愛された者はこちらの意志関係なしで強制的に恋仲にされてしまうためのもの。
抗うことはしなかった。
する暇も与えず、男は私をさらっていったのだ。