ふと気がついて、すこし可笑しくなった。


彼の名前も知らないんだ、あたし。


同じ学校で同じ学年なんだから、調べようと思えば調べられたはずなのに。


なぜかそうしなかった。


今も、名前を知ろうとは思わない。


知らないままでもいいと、このときは思っていた。


ちかちか、と蛍光灯が何度かまたたいて、明かりがつく。


どうやら復旧したようだ。


「助かったね」


彼がにこりと笑うのに、あたしも笑ってうなずいた。


それが、彼との最後の会話。


その日を最後に、彼は図書館に姿を見せなくなった。